原賠法の見直し 事故に備えられぬ原発は撤退を

2018年8月24日  愛媛新聞 社説

https://www.ehime-np.co.jp/article/news201808240015


 原発の重大事故のリスクから目をそらす政府の姿勢に憤りを覚える。

 

 内閣府原子力委員会の専門部会が、原発事故に伴う賠償の仕組みを定めた原子力損害賠償法について、事前に備える賠償金(賠償措置額)を現行の最大1200億円で据え置く方針を示した。秋の臨時国会に原賠法改正案を提出する見通しだ。

 

 東京電力福島第1原発事故では、既に8兆円を超す巨額の賠償金が生じている。現行の賠償措置額で対応できないことは明らかにもかかわらず、見直さなかったのは看過できない。政府が賠償責任にさえも真摯(しんし)に向き合わず、原発周辺住民らの不安を置き去りにしたまま原発の再稼働を進めることは断じて容認できない。

 

 現行の原賠法では、過失の有無にかかわらず、電力会社が上限なく全ての賠償責任を負うと規定する。賠償措置額の1200億円までは民間保険や政府補償で支払い、それ以上は国が援助する仕組みだ。

 

 福島原発事故では、賠償措置額を大きく超え、国が一時的に資金を肩代わりして東電に長期返済させる仕組みをつくって急場をしのいだ。今回、現行の原賠法の骨格がほぼ見直されなかったため、新たに事故が起きた場合、福島と同様の対応をとることになる。だが、福島の賠償は東電1社で賄うのではなく、四国電力も含めた電力会社も負担している。電力自由化などで競争が激化する中、今後も互いに協力する仕組みが維持できる保証はない。

 

 賠償措置額が据え置かれたのは、事故のリスクを負いたくない電力会社と政府の妥協の産物だ。電力会社は、経営環境が変化し、原発の安全対策費などの投資が増える中、さらに負担を増やしたくない思惑があった。政府も、補償の増額は国民負担につながるため、世論の反発を恐れて消極的となった。両者とも、事故の反省が全くみられないばかりか、自己都合があからさまであり、無責任に過ぎる。

 

 電力会社が賠償責任を上限なく負う「無限責任」は維持された。専門部会の議論の中で電力業界は、一定額以上は国が責任を持つ「有限責任」に切り替えるよう強く主張していた。事業の予見可能性に支障が出るとの理由だったが、電力業界が有限責任を求めること自体、福島原発事故と同規模の賠償は不可能だと認めているに等しかった。事故の備えも十分にできないような原発事業からは撤退するのが筋だ。

 

 四電は、司法判断で停止中の伊方原発3号機の運転再開を急ぎたい考え。しかし、四電は東電に比べ経営規模が格段に小さく、福島原発のような事故が起きれば、最悪の場合、経営破綻に追い込まれて住民らに十分な賠償ができない懸念がある。県や周辺市町は、原発の安全性のみならず、賠償面からも原発の運転再開の是非を考え直す必要がある。